CCS(二酸化炭素回収・貯留)とは?
ここでは、地球温暖化対策として重要視される「CCS」について、基本的な考え方を解説します。
CCSの基本的な仕組み
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とは、発電所や工場から排出されるガスから二酸化炭素(CO₂)を分離・回収し、地下深くの地層に長期間安定的に貯留する技術の総称です。
大気中へのCO₂放出を直接的に抑制できるため、即効性のある温暖化対策として世界的に評価されています。
なぜ今、CCSが注目されているのか
近年、世界各地でこれまでにない規模の熱波や豪雨、干ばつといった異常気象が頻発し、地球温暖化の影響は私たちの暮らしや生態系に深刻な影を落としています。
この危機的な状況を食い止めるため、世界はCO₂をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きでゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を、共通の目標として掲げました。
この目標達成のカギを握る技術としてCCSに高い期待が寄せられています。
国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、パリ協定の「2℃目標」を達成するために、2060年までのCO₂削減量のうち14%をCCSが担うことが期待されるなど、その重要性は国際的にも広く認識されています。
省エネの推進や再生可能エネルギーの導入拡大などはもちろん重要ですが、それだけではCO₂排出削減が難しい産業分野(鉄鋼やセメントなど)が存在するのも事実です。
CCSは、こうした分野において経済活動と環境保全を両立させるための、現実的かつ不可欠な技術として位置づけられています。
CCSはどのように行われる?3つのステップで仕組みを解説

CCSは、CO₂を「①回収」し、「②輸送」し、「③貯留」するという、大きく3つのプロセスで構成されます。
各ステップでどのような技術が使われているのか、その流れを具体的に見ていきましょう。
STEP1:二酸化炭素(CO₂)を分離・回収する
CCSの最初のステップは、排出されたCO₂を捕集することです。
現在主流なのは、アミンという化学物質(化粧品などにも使われる一般的な物質)の溶液を用いた化学吸収法です。
排ガスをアミン溶液と接触させてCO₂だけを吸収させ、その後120℃程度に加熱することで高純度のCO₂を分離します。
STEP2:回収したCO₂を輸送する
次に、回収したCO₂を貯留場所まで輸送します。
効率よく大量に運ぶために、CO₂は高い圧力をかけて液化され、パイプラインや船舶を使って輸送されます。
実際にアメリカでは、総延長2,500km以上もの長距離パイプラインがCO₂輸送のために建設・運用されています。
船舶輸送は世界的にはまだ事例が少ないですが、貯留に適した地層が沖合に点在する日本にとっては、大きなメリットのある輸送手段として期待されています。
STEP3:CO₂を地下深くに貯留する
最後のステップは、運ばれてきたCO₂を地中に貯留することです。
CO₂は、地上から800メートル以上深い場所にある、砂岩など無数のすき間を持つ「貯留層(帯水層)」に注入されます。
そして、その貯留層の上には、CO₂を通さない泥岩などの「遮へい層(不透水層)」が天然のフタとして存在します。
石油や天然ガスが溜まっているのと同じような地質構造を利用することで、CO₂を長期間にわたり安全に閉じ込める仕組みです。
なお、日本の近海には、国内CO₂排出量の100年分以上に相当する、約1,460~2,360億トンもの貯留可能量があると推計されています。
CCSが抱える課題・問題点
地球温暖化対策の切り札として期待されるCCSですが、実用化に向けては乗り越えるべき壁もあります。
ここでは、コストやエネルギー効率といった技術的な課題と、気になるCCSの安全性について解説します。
高額なコストとエネルギー効率が課題
CCSを社会に広く普及させるうえで、大きな壁となっているのが、CO₂の分離・回収プロセスにかかるコストです。
現在主流の「化学吸収法」では、CO₂を吸収した液体を100℃以上に加熱して分離します。このプロセスでは多くのエネルギーを消費するため、その分高額なコストがかかるのが現状です。
さらに、コストは排出源のCO₂濃度にも左右されます。
鉄鋼工場などから排出される高濃度のCO₂は比較的回収しやすい一方、天然ガス火力発電所などから出される低濃度のCO₂は、回収により多くのエネルギーが必要です。
そのため、現在は高濃度CO₂の回収が主に進められていますが、将来のカーボンニュートラル達成には、低濃度CO₂も同じく回収を進めていかなければなりません。
こうした課題を克服するため、ゼオライト膜やイオン液体などを使った省エネ型の新しい技術開発が進められています。
CO₂漏洩や地震誘発のリスクは?
地下に埋めたCO₂が漏れたり、地中に貯留することで地震を誘発したりしないかが気になる方も多いでしょう。
CO₂の貯留場所には、事前に綿密な地質調査を実施したうえで、CO₂を通さない「遮へい層」がフタの役割を果たす、安定した地層が選ばれます。
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の調査でも、適切に管理すれば貯留したCO₂を1,000年にわたって地中に閉じ込められると報告されています。
また、地震についても、活断層の近くを避け、地層が破壊されないよう圧力を管理しながら注入するため、CCSが大きな地震を誘発することはないと考えられています。
世界のCCSプロジェクトと先進的な取り組み

世界で稼働あるいは計画されているCO₂回収量は、2023年時点で約3.5億トンと、2017年の約7倍に急増しています。
欧米では2000年代後半から法整備が進み、2020年前後からはCCS事業の採算性を確保するための支援制度構築が各国で進められている状況です。
ここでは、世界のCCSを牽引する代表的なプロジェクトを3つ紹介します。
【ノルウェー】世界初の商業規模CCS「スライプナー・プロジェクト」
ノルウェーの石油・天然ガス企業が1996年から北海で実施している、世界でもパイオニア的な存在の大規模プロジェクトです。
海底のガス田から天然ガスを採掘する際に、一緒に発生するCO₂を分離・回収。年間およそ100万トンものCO₂を、近傍の海底下にある帯水層に貯留しています。
プロジェクト開始から20年目の節目にあたる2016年までに、累計で1,600万トン以上のCO₂を貯留した実績は、CCS技術の長期的な安全性と有効性を世界で初めて実証した事例として、高く評価されています。
【カナダ】国境を越えたCO₂有効活用「ワイバーン・プロジェクト」
カナダのワイバーン油田では、2000年からCO₂を石油の増進回収(石油の回収率を向上させるための技術)に利用しています。
特徴的なのは、325kmも離れたアメリカの石炭ガス化工場から、パイプラインで国境を越えてCO₂を輸送している点です。
年間300万トン規模での圧入を続けており、2012年末までには累計で2,450万トンものCO₂を圧入しました。
【オーストラリア】世界最大級のCCS「ゴルゴンプロジェクト」
オーストラリアで進行中の「ゴルゴンプロジェクト」は、バロー島にある液化天然ガス(LNG)プラントに併設された、世界最大級のCCS事業です。
天然ガスの生産過程で自然に発生するCO₂を分離し、地下2kmもの深さにある巨大な貯留層へ圧入します。
2019年の稼働開始以来、すでに1,100万トン以上(2025年5月時点)のCO₂を安全に貯留しています。
CCSシステムが寿命を迎えるまでに、1億トン以上のCO₂が削減されると見込まれており、大規模な産業活動とCCSを組み合わせた、脱炭素化のモデルケースとして注目されています。
日本のCCSプロジェクトの現状と今後の展望
四方を海に囲まれ、CO₂の貯留に適した地層が豊富に存在するとされる日本でも、世界に追いつくべくCCSの実用化に向けた動きが加速しています。
ここでは、日本のCCS技術の礎を築いた実証試験と、CCS事業化に向けた動きを紹介します。
【新潟県】日本のCCSの礎を築いた「長岡実証試験」
日本のCCSの歴史は、2000年度に新潟県長岡市で始まった実証試験から始まりました。
この「長岡実証試験」は、経済産業省の補助事業として地球環境産業技術研究機構(RITE)が行った、CO₂を地中深くに貯留する国内初の試みです。
2003年7月から18ヶ月間で、約10,000トンのCO₂が地下約1,100mの貯留層に圧入されました。
その後の詳細なモニタリングを通じて、CO₂が漏洩することなく安定して地中に留まることが確認され、日本のCCS技術の礎となる貴重な知見が得られました。
【北海道】事業化への道を開いた「苫小牧実証試験」
北海道苫小牧市では、国家プロジェクトとしてCCSの大規模実証試験が行われています。
2012年度から4年間かけて設備の設計・建設が行われ、2016年4月からCO₂の圧入が開始されました。
CO₂は、海底下約1,000mと約2,400mにある2つの異なる地層へ、年間10万トン規模を目標に圧入。2019年11月22日に、累計圧入量が目標の30万トンに達しました。
現在は圧入を停止し、貯留したCO₂が安定しているかを確認するモニタリングが続けられています。
2030年までの事業化に向けた動き
これらの実証試験で得られた成果と知見をもとに、日本は現在、CCSの本格的な事業化に向けて大きく舵を切っています。
2023年3月に、政府は「CCS長期ロードマップ」を策定しました。
この中で「2030年までの事業開始、および年間600万~1,200万トンのCO₂貯留の実現」という大きな目標を掲げ、達成のカギとなる9件の先進的なプロジェクトを選定しました。
さらに、事業化を法的に後押しするため、2024年5月には事業者の権利や責任を定めた「CCS事業法」が成立。
まさに今、日本は官民一体となって、カーボンニュートラル実現の切り札であるCCSの社会実装を目指しています。
もっと身近なCO₂削減!家庭の電気を見直してみよう

CCSのような大規模な技術開発は、地球の未来のためにとても重要です。一方で、私たちの暮らしの中でも、環境のためにできる大きなアクションがあります。
それが「家庭で使う電気を見直す」ことです。
国立環境研究所国立環境研究所のデータによれば、家庭から出るCO₂排出量の約半分は、電気の使用によるものとされています。
照明やエアコンなど、生活に欠かせないからこそ、毎日使う電気を環境に優しいものへ切り替えることが、効果的なCO₂削減につながります。
環境に優しい電気を選ぶなら「エバーグリーン」

家庭の電気を環境に優しいものに切り替えるなら、『エバーグリーン』がおすすめです。
エバーグリーンは、イーレックスと東京電力エナジーパートナーが、脱炭素社会の実現に向けて設立した共同出資会社です。
ここでは、エバーグリーンの特徴やメリット、ライフスタイルに合わせて選べるプランをご紹介します。
切り替えるだけで家庭のCO₂排出量が実質ゼロに!
エバーグリーンの最大の魅力は、すべてのプランで再生可能エネルギー100%のCO₂フリー電気を提供している点です。
具体的には、一般的なファミリー世帯がエバーグリーンの電気に切り替えた場合、1ヶ月あたり約148kgものCO₂を削減可能です。
電気を切り替えるだけで、実に杉の木およそ11本分の植林効果に相当する環境貢献を実現できます。
※CO₂排出量は令和3年度全国平均係数(0.434kg-CO₂/kWh)をもとに計算
※植林効果は「森林の二酸化炭素吸収力」(関東森林管理局/林野庁)をもとに、杉の木1本当たりの年間CO₂吸収量を14kgとして計算
エバーグリーンのエコな電気に興味がある方は、ぜひ公式サイトで詳細をご覧ください。
エコに「安心」「おトク」をプラスしたユニークなプラン
エバーグリーンでは、環境への優しさに加えて、ご家庭のライフスタイルに寄り添うユニークなプランをご用意しています。
- ライフスタイルプラン
毎月の電気料金が一定額になる「変動ゼロ」のプランです。季節ごとの電気代変動が気になる方や、家計管理を簡単にしたい方におすすめ。 - あるく・おトク・でんき
歩数に応じて電気代がおトクになる、健康志向の方に嬉しいプラン。楽しみながら、健康にも環境にも優しい生活を続けられます。 - 保険でんき
個人賠償責任保険と電気がセットになったプラン。自転車事故など日常生活のさまざまなリスクをカバーしてくれるので、もしもの時にも安心です。
各プランの詳細は、ぜひエバーグリーンの公式サイトをご覧ください。
エバーグリーンへの切り替え申し込みはWebサイトからわずか5分程度で完了し、現在契約している電力会社への連絡も不要です。
ご家庭にぴったりなプランを選んで、無理なく楽しく、エコな生活を始めましょう。
CCSとエコな電気で、持続可能な未来を共創しよう
地球温暖化という大きな課題に対し、CCSのような最先端技術の開発が世界中で進められています。
同時に、私たち一人ひとりが日々の暮らしの中で行う選択も、未来を変える大きな力になります。
家庭からのCO₂排出の約半分を占める電気を、環境に優しい再生可能エネルギーに切り替えること。それは、今日からできる効果的なアクションのひとつです。
未来のための選択を、ぜひご家庭の電気から始めてみませんか?
- 出典:
- 環境省「エコジン」|CCSって?
- 経済産業省資源エネルギー庁|知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』
- 経済産業省資源エネルギー庁|日本でも事業化へ動き出した「CCS」技術(前編)〜世界中で加速するCCS事業への取り組み
- 環境省|CCUSに必要な主な技術
- 産総研マガジン|CCS/CCUSとは?
- 環境省|CCUSについて
- 経済産業省資源エネルギー庁|CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)
- 苫小牧市|苫小牧におけるCCS大規模実証試験
- 国立研究開発法人 国立環境研究所「環境展望台」|CO2回収・貯留(CCS)
- Institution of Civil Engineers (ICE)|Sleipner Carbon Capture and Storage Project
- 石油資源開発株式会社(JAPEX)|EOR(原油増進回収)
- chevron australia|carbon capture and storage
- chevron australia|gorgon project
- 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)|CCS技術事例集について
- 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)|長岡CO2圧入実証試験
- NEDO|「CCS大規模実証試験」総括報告書を公表
- 経済産業省資源エネルギー庁|CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(後編)
- 経済産業省資源エネルギー庁|日本でも事業化へ動き出した「CCS」技術(後編)〜「CCS事業法」とは?
- 環境省|二酸化炭素の貯留事業に関する法律等について
- 国立環境研究所国立環境研究所|日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2023年度)