環境活動家グレタ・トゥーンベリが広めた「飛び恥」の意味は?
「飛び恥(とびはじ)」とは、飛行機に乗ることが地球環境に大きな負荷をかけることから、利用することに罪悪感や羞恥心を抱くことです。
この言葉を世界に広めたのが、当時16歳の環境保護活動家、グレタ・トゥーンベリ氏です。
スウェーデン語の「Flygskam(フリュグスカム)」が語源で、英語では「flight shame」、日本語では「飛び恥」と訳されています。
「飛び恥」の考え方は、トゥーンベリさんが国連の会議に出席する際、飛行機の利用を拒否し、ヨットで大西洋を横断したことなどから世界的に注目を集め、環境保護を訴える社会運動として広がりました。
ヨーロッパで広がる「飛び恥」の動き

「飛び恥」の考え方が広まっているヨーロッパでは、人々の行動や社会に具体的な変化が生まれています。
例えば、スウェーデンでは、「可能な限り飛行機ではなく鉄道で移動する」と答えた人の割合が20%から37%へとほぼ倍増しました。実際に、スウェーデン最大の鉄道会社SJが2018年に販売したチケットは、前年比で5%(150万枚)増加しています。
その一方で、主要10空港における国内線の旅客数は2019年1月から4月にかけて8%減少するなど、具体的な行動の変化として表れています。
また、フランスでは、鉄道で2時間半以内に移動できる国内線の一部を禁止する法律が2023年5月に成立するなど、政府レベルでの対策も進んでいます。
こうした各国の動きから、「飛び恥」は個人の意識だけでなく、社会の仕組みを変える力を持つムーブメントであると言えるでしょう。
日本における「飛び恥」の現状と受け止められ方
ヨーロッパで大きな動きとなっている「飛び恥」ですが、日本ではまだ一般的に浸透しているとは言えない状況です。
島国である日本は、飛行機での移動が不可欠な場面も多く、ヨーロッパほど強い罪悪感を持つ人は少ないかもしれません。
しかし、メディアで環境問題に関する新しいキーワードとして紹介されたり、SNSで話題になったりする機会は増えています。
2023年には、社会デザインプラットフォーム「Surfvote」で「東京~大阪間のフライトが禁止になったら?」という投票企画が登場した事例などもあります。
地球温暖化対策への関心が高まるなか、日本でも移動手段と環境負荷の関係について考える人は少しずつ増えています。
ヨーロッパで一大ムーブメントを起こした「飛び恥」は、今後日本でも、人々のライフスタイルを変化させる可能性を秘めていると言えるでしょう。
飛行機が環境に与える深刻な影響

では、なぜこれほどまでに飛行機が問題視されるのでしょうか。ここでは、航空機が環境に与える影響についてわかりやすく解説します。
他の移動手段とのCO₂排出量を比較
まずは、飛行機とその他の乗り物でCO₂排出量を比較してみましょう。欧州環境庁(EEA)の報告書における推計値は以下の通りです。
輸送手段 | CO₂排出量(旅客一人あたり・1kmあたり) |
---|---|
鉄道 | 14g |
小型車 | 42g~104g |
平均的な自動車 | 55g~158g |
バス | 68g |
二輪車 | 72g |
飛行機 | 285g |
飛行機のCO₂排出量は285gと、他の交通手段に比べて突出して高い数値です。もっとも排出量が少ない鉄道(14g)と比較すると、その差は約20倍にもなります。
航空機の歴史は1950年代のチャーター機からと比較的新しいですが、利用は飛躍的に増え、1990年から2006年の間に、EUだけで航空機からのCO₂排出量は87%も増加しています。
スウェーデンの気候変動研究者キンバリー・ニコラス氏によれば、ロンドンとニューヨークを往復するだけで平均約1.6トンのCO₂が排出され、これだけで年間のカーボンバジェット(※)の4分の3以上を消費してしまう計算になります。
※地球温暖化を抑えるために、あとどれくらい温室効果ガスを排出できるかを示す指標。炭素予算とも呼ばれています。
【関連記事】カーボンバジェットとは?残りのCO₂排出量や1.5℃目標をわかりやすく解説
飛行機雲も温暖化を加速させる一因に
飛行機の影響は、CO₂排出だけではありません。飛行機が上空を通過したあとにできる「飛行機雲」も、地球温暖化を加速させる一因と指摘されています。
2022年のIPCC報告書によれば、航空が地球温暖化におよぼす影響のうち、約35%は飛行機雲に由来するものです。
飛行機雲は、雲として太陽光を反射して地球を冷やす効果がある一方で、地表から放出される熱を宇宙に逃がさず、地球を温める効果も持っています。
特に、大気の状態によっては飛行機雲が数時間消えずに残ることがあり、温暖化への影響が問題視されています。
航空業界のCO₂削減に向けた国際的な取り組み
「飛び恥」という世論の高まりもあり、国際社会や航空業界全体ではCO₂削減に向けた動きが加速しています。
ここでは、世界で採択された目標や、その達成に不可欠な新しい燃料技術について解説します。
ICAOが掲げる2050年ネットゼロ目標
世界の航空政策を議論する国連の専門機関、ICAO(国際民間航空機関)は、2022年に「2050年までに国際航空分野のCO₂排出を実質ゼロにする」という長期目標を採択しました。
これは、従来の「排出量を増やさない」という目標から大きく踏み込んだ、画期的な方針転換です。
この目標を達成するため、後述するSAF(持続可能な航空燃料)の開発・増産や、CORSIA(コルシア)と呼ばれるカーボンオフセットの仕組みの強化が進められています。
今後も増加が見込まれる国際線のCO₂排出に対し、この新たな目標は、世界の航空業界全体の脱炭素化を加速させるものとして大きな期待が寄せられています。
各国で加速するSAF(持続可能な航空燃料)の開発・導入
航空業界のCO₂削減で、現在もっとも重要なカギとされているのが、「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」と呼ばれる持続可能な航空燃料です。
廃食油や都市ごみ、トウモロコシといったバイオマス資源を原料とする次世代の燃料で、従来のジェット燃料と比べると、CO₂排出量を約60~80%も削減できるのが大きな特徴です。
現在、世界各国でSAFの普及に向けた取り組みが加速しています。
アメリカでは、バイデン政権下の2021年9月に、2050年に航空燃料の100%をSAFに置き換える「SAF Grand Challenge Roadmap」を掲げ、手厚い支援策で普及を後押ししています。
一方、ヨーロッパ(EU)では規制を重視し、「RefuelEU Aviation」という政策において、燃料会社にSAFの混合を義務付けています。2025年の2%から始まり、2050年には70%まで段階的に引き上げる計画です。
航空業界のCO₂削減に向けた日本の取り組み

「飛び恥」が世界的な潮流となるなか、日本も官民一体で航空業界の脱炭素化に取り組んでいます。
政府が具体的な目標を掲げ、それに応える形で航空会社も新しい技術やサービスを導入するなど、さまざまな挑戦が始まっています。
2030年までに10%!日本のSAF普及戦略
日本政府は、「2030年までに国内で使われる航空燃料の10%をSAFに置き換える」という目標を掲げています。
この目標達成に向け、国内では官民一体となったサプライチェーン構築が急ピッチで進んでいます。
例えば、コスモエネルギーグループは大阪府堺市で日本初となるSAFの量産プラントを稼働させ、年間約30,000キロリットルの国産SAFを生産。
その主な原料となるのが、家庭や飲食店から出る廃食用油です。「Fry to Fly Project」のような取り組みを通じて、自治体や企業と連携しながら廃食用油を回収し、飛行機の燃料へと生まれ変わらせています。
これまで海外からの輸入に頼ることが多かったSAFですが、今後は国産SAFの安定供給を目指した動きが本格化していきます。
JALが進める環境イノベーション
日本の大手航空会社であるJALも、「2050年までにCO₂排出量実質ゼロ」という高い目標を掲げ、具体的な取り組みを進めています。
例えば、2030年度までに全燃料の10%をSAFに置き換える目標達成に向け、家庭から廃食油を回収して原料を確保する取り組みを2024年3月から開始しています。
さらに、法人顧客が間接的にCO₂削減に貢献できる「JAL Corporate SAF Program」といった仕組みも導入。
航空会社のみにとどまらず、社会全体を巻き込んだ脱炭素化を推進しています。
飛び恥をきっかけに行動を見直そう!今日からできる4つの環境アクション
政府や航空業界がSAFの導入などで脱炭素化を推進する一方、私たち一人ひとりには何ができるのでしょうか。
ここでは、私たちが今日から始められる、環境を守るための具体的なアクションを4つご紹介します。
アクション1:移動手段を見直す(モーダルシフト)
「モーダルシフト」とは、環境負荷の大きい移動手段から、より環境に優しい移動手段へ切り替えることです。
前述の通り、鉄道は輸送時に排出するCO₂が航空機よりもはるかに少ないため、飛行機に代わる移動手段として積極的に活用すると良いでしょう。
最近の夜行バスも、フルリクライニングシートやWi-Fiが完備されている車両が多く、快適さと環境への優しさを両立できる選択肢です。
また、旅行の計画を立てる際に、あえて近場の観光地を選ぶことも、移動距離を短縮し環境負荷を減らすことにつながる立派なアクションと言えます。
アクション2:カーボンオフセットを活用する
飛行機に乗る必要がある場合は、「カーボンオフセット」を活用するのがおすすめです。
カーボンオフセットとは、自分のフライトによって排出したCO₂を、植林やクリーンエネルギー事業などのCO₂削減・吸収プロジェクトに投資することで埋め合わせる考え方です。
例えば、ANAでは「ANAカーボンオフセット プログラム」、JALでは「JALカーボンオフセット」といったプログラムが用意されています。
これらは、厳しい認証基準を満たした信頼性の高い温暖化防止プロジェクトを支援するもので、専用サイトなどを通して数百円から気軽に参加できます。
飛行機での移動を避けられない場合でも、こうした仕組みを利用することで環境への配慮を示せるので、ぜひ活用してみましょう。
【関連記事】カーボン・オフセットとは?仕組みや方法をわかりやすく説明
アクション3:環境に配慮した企業の取り組みを応援する
消費者として、環境対策に積極的な企業を選ぶことも、未来を変える重要な取り組みのひとつです。
例えば、SAFの利用に積極的な航空会社を選んだり、旅行先のホテルを選ぶ際に「エコマーク」などの環境認証を取得している施設を予約したりすることも、立派な環境貢献です。
私たちの選択が、企業全体の環境意識を高めるきっかけにつながります。
【関連記事】環境ラベルとは?マークの種類や意味、環境に優しい商品選びのコツを解説
アクション4:家庭のCO₂排出量を見直す
飛行機だけでなく、私たちが日常生活で排出するCO₂にも目を向けてみましょう。実は、家庭から出るCO₂排出量のうち、約半分は電気の使用によるものです。
現在、国内の電気の多くは火力発電によってつくられており、発電に伴って多量のCO₂が排出されています。
一方、近年では温暖化対策の有力な切り札として、再生可能エネルギーによる発電に注目が集まっています。
再生可能エネルギーによる発電は、電気をつくる際にCO₂を排出しないのが特徴です。そのため、毎日の電気を再生可能エネルギー由来のエコな電気に切り替えることで、家庭からのCO₂排出量を効果的に減らせます。
家庭で実践できる効果的な温暖化対策として、まずは毎日使う電気の「質」を見直してみましょう。
環境に優しい電気ならエバーグリーンがおすすめ

環境に優しいエコな電気を使いたい方におすすめなのが『エバーグリーン』です。
エバーグリーンは、国内有数のバイオマス発電事業者であるイーレックスと東京電力エナジーパートナーが、脱炭素社会の実現に向けて設立した共同出資会社。
すべてのプランで、再生可能エネルギー100%の電気を提供しているのが大きな特徴です。
切り替えるだけで家庭のCO₂排出量が実質ゼロに!
エバーグリーンのエコな電気に切り替える最大のメリットは、家庭の電気使用によるCO₂排出量を実質ゼロにできることです。
具体的には、一般的なファミリー世帯がエバーグリーンの電気に切り替えた場合、1ヶ月あたり約148kgものCO₂を削減できます。これは、杉の木およそ11本分の植林効果に相当します。
※CO₂排出量は令和3年度全国平均係数(0.434kg-CO₂/kWh)をもとに計算
※植林効果は「森林の二酸化炭素吸収力」(関東森林管理局/林野庁)をもとに、杉の木1本当たりの年間CO₂吸収量を14kgとして計算
電力会社を切り替えるだけで、ご家庭のCO₂排出量を減らし、持続可能な社会づくりに貢献できます。
無理なく継続できる環境アクションなので、気になる方はぜひエバーグリーン公式サイトをチェックしてみましょう。
あなたの暮らしに寄り添うユニークな電気プラン
エバーグリーンでは、環境への優しさに加えて、ご家庭のライフスタイルにも寄り添うユニークなプランをご用意しています。
- ライフスタイルプラン
毎月の電気料金が一定額になる「変動ゼロ」が魅力のプラン。季節ごとの電気代変動が気になる方におすすめです。家計管理がしやすくなるメリットも。 - あるく・おトク・でんき
歩数に応じて電気代が安くなる、健康志向の方に嬉しいプランです。楽しみながら健康にも環境にも優しい生活を続けられます。 - 保険でんき
個人賠償責任保険と電気がセットになった、安心感を両立したプランです。自転車事故など日常生活におけるさまざまなリスクをカバーしてくれるので、もしもの時にも安心です。
各プランの詳細は、エバーグリーンの公式サイトをご覧ください。
エバーグリーンへの切り替え申し込みは、Webサイトからわずか5分程度で完了します。現在の電力会社への連絡もエバーグリーンが行うため、手間なく切り替えが可能です。
環境への優しさと暮らしのメリットを両立するプランで、無理なくサスティナブルな生活を始めましょう。
地球の未来のための選択を
「飛び恥」は、私たちに移動と環境の関わりを深く考えさせてくれるキーワードです。
SAFのような技術革新が進み、航空業界も変わろうとしています。私たち一人ひとりの選択が、こうした社会の変化を後押しする力になるでしょう。
また、飛行機だけでなく、日々の暮らしのなかにも、地球の未来のためにできることはたくさんあります。
なかでも、毎日使う電気を環境に優しいものへ切り替えることは、誰でもすぐに始められる、効果的なアクションです。
より良い未来への一歩として、ぜひエコな電気への切り替えをご検討ください。
- 出典:
- コトバンク|飛び恥
- サスタビ|環境にも配慮!「飛び恥」にならない飛行機と旅の楽しみ方5つ
- NewSphere|「地球のために飛行機に乗らない」欧州に広がる「飛び恥」、列車利用が増加
- BBC NEWS JAPAN|温暖化対策訴える16歳少女、ヨットで大西洋横断し国連へ
- The Economist|The Greta effect
- CNN.co.jp|フランス、鉄道利用が可能な短距離フライト禁止 パリ・ボルドー間など
- NEWSCAST|【飛び恥】「東京と大阪を飛行機で飛ぶことが禁止になったら何が心配?」Surfvoteで投票開始
- EEA|CO2 emissions from passenger transport
- The Irish Times|Why we should skip the plane and take a train instead
- NBC NEWS|Swedes are switching from planes to trains — here’s why
- 世界経済フォーラム|きれいな飛行機雲、実は地球に有害?世界の最新テックでその解決法を探る
- ジェトロ|国際航空で2050年にCO2排出実質ゼロへ、ICAOが採択
- 国連広報センター|国際民間航空機関(ICAO)
- 国土交通省「Grasp」【後編】2050年に「CO₂排出量実質ゼロの持続可能な空の旅」を見届けたい
- 国土交通省|SAF(サフ)
- KANSAI空港レビュー|航空会社の脱炭素の取り組みとSAFの最新状況について
- 国土交通省|航空機運航分野における脱炭素化の取組について
- NHK|航空燃料の脱炭素目指す“純国産”SAF供給開始
- コスモエネルギーホールディングス株式会社|持続可能な未来に向けたCOSMOの国産SAF
- ANAグループ|ANAカーボンオフセット プログラム
- ANA Inspiration of JAPAN|ANAカーボン・オフセットプログラムの地球温暖化防止プロジェクト
- 日本航空株式会社(JAL)|「JALカーボンオフセット」について