【21世紀のグリーン燃料】大気中のCO₂を再利用する「合成燃料」とは

2021年10月15日

次世代のグリーン燃料と言われている「合成燃料」をご存知でしょうか。製造時にCO₂を再利用することからカーボンニュートラル実現に向けた新しい燃料として注目されています。今回はそんな合成燃料について分かりやすくご紹介します。

【目次】

合成燃料とは

合成燃料の可能性


「分野別」合成燃料の活用方法


■自動車


■航空機・船舶


■石油精製業


合成燃料の今後の動向


まとめ

合成燃料とは


合成燃料とは、二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)を合成して製造される燃料です。
複数の炭化水素化合物の集合体であることから、「人工的な原油」とも呼ばれます。

合成燃料の原料となるCO₂は、発電所や工場などから排出されたCO₂を利用します。将来的には「DAC技術※」によって大気中から回収したCO₂を再利用(カーボンリサイクル)することも想定されており、こうした合成燃料は脱炭素燃料とみなすことができます。更に、原油に比べて硫黄分や重金属が少ない合成燃料は次世代のグリーンエネルギーの一つとして様々な製品に活用できると期待されています。

もう一つの原料である水素は、製造過程でCO₂が排出されない再生可能エネルギー(再エネ)などでつくった電力エネルギーを使って、水から水素をつくる「水電解」によって調達する方法が基本となります。このように再エネ由来の水素を用いた合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれています。

※DAC技術:回収源のCO₂濃度が低い大気中のCO₂を直接分離・回収する技術(DAC:Direct Air Capture)

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(出典:エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは|資源エネルギー庁)

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合成燃料の可能性


液体合成燃料は、化石由来のガソリンや軽油等と同様に、エネルギー密度が高いという特徴があります。
昨今、水素自動車や電気自動車など乗用車の電動化や水素化が進んでいますが、エネルギー密度の観点から動力源を電気・水素エネルギーに転換させることが難しい交通手段・製品もあり、液体合成燃料はこれらに有効とされています。
例えば、大型車やジェット機が電動化・水素化した場合、液体燃料と同様の距離を移動する際、大容量の電池・水素エネルギーが必要ですが、これに比べ液体合成燃料は少ない容量で対応できます。このように、製品によって化石燃料由来の液体燃料を液体合成燃料に置き換えることで、エネルギー密度を保ちつつ、CO₂の排出量を抑えることが可能になります。

また、もう一つの特長として従来の内燃機関(ガソリンを使うためのエンジン)やすでに存在している燃料インフラを活用できる点が挙げられます。
水素エネルギーなどのほかの燃料では、導入コストがかかったり、インフラ整備が必要なケースがありますが、合成燃料では既に稼働している燃料インフラのまま使用する燃料を合成燃料に変えれば良いため、導入コストを抑えることができ、市場への導入がよりスムーズになります。

更に合成燃料は、エネルギーのレジリエンス(強靭性)やセキュリティの面でも優位性があります。例えば災害などで停電が発生した地域への燃料配送、高速道路で立ち往生した自動車への給油もできるほか、災害対応機能を持った全国のサービスステーションなどでは既存のタンクを活用した備蓄も可能です。また、国内で工業的に大量生産できること、常温常圧で液体であるため長期備蓄ができるなど、様々な可能性があります。

(出典:エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは|資源エネルギー庁)

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「分野別」合成燃料の活用方法


合成燃料は、その使い勝手の良さから様々な分野での活用が期待されています。
ここでは、近年電動化など技術の進化が著しい「自動車」「航空機・船舶」分野での活用方法をご紹介します。

■自動車


自動車は、政府が掲げるグリーン成長戦略において電動化が推進されており、遅くとも2035年までに、乗用車新車販売で電動車※100%の実現を目標に掲げています。しかしながら、電気自動車や燃料電池自動車には、ランニングコストの削減や充電時間、導入に合わせた整備等といった課題があります。

2017年のIEA(国際エネルギー機関)の分析によると、交通手段は世界的に電動化の流れにはあるものの、エンジン車との併存が続く見通しで、2030年時点では、電動車の割合が32%まで増加する一方で、ガソリン車やハイブリッド自動車等のエンジン搭載車は91%残るという見通しが立てられています。2040年時点においても、乗用車販売に占める84%はエンジン搭載車のため、カーボンニュートラルの実現に向けて、これらに供給する脱炭素燃料が重要となります。

電動車のこれらの潜在的課題を解決する一つの選択肢としてバイオ燃料と並んで注目されているのが合成燃料です。特に、電動化のハードルが高い商用車等については、合成燃料を代替燃料とすることで脱炭素化を図ることができるとされています。

※電動車:電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車

■航空機・船舶・産業用燃料

航空機・船舶の分野では、国際機関の要請によりCO₂の削減目標が定められています。そのため、航空機についてはバイオジェット燃料・合成燃料、船舶については水素・アンモニアなどの代替燃料の技術開発が進められています。

世界の航空会社で構成される業界団体であるIATAでは、航空輸送分野における2050年のCO₂総排出量は、2005年比で50%削減が目標とされています。
新型コロナウイルスの影響で需要が低迷している航空業界ですが、2024年には2019年並みに需要が戻ると予測されています。
また、航空業界の国際機関であるICAOでは、航空輸送分野における2020年以降のCO₂排出量は、2019年のCO₂排出量(基準排出量)に抑えることが目標とされています。そのため、各航空会社には、目標達成のためのCO₂排出削減に向けたなんらかの取組が求められています。

一方、船舶分野においても、国際海事機関であるIMOにおいて、国際海運からのGHG排出削減目標として2050年に50%以上の総量削減が掲げられていますが、既存船舶に対するCO₂排出規制の国際枠組みが存在しないなどの課題があります。こうした課題に全方位で対応するため、既存船舶を活用しながらカーボンニュートラルが実現できる合成燃料の技術開発が必要とされています。

合成燃料は、輸送用燃料のほかにも、民生用燃料としての利用も想定されます。例えば、灯油・LP ガス・都市ガスを利用した暖房器具は、エアコンと比較して即暖性が高く、外気温に影響されにくい等の特徴があり、特に寒冷地域では、引き続き需要が残る可能性があります。合成燃料はこうした灯油の特徴を維持することができるほか、産業用(ボイラー)燃料としての活用も可能です。

■石油精製業など

合成燃料は、既存の燃料インフラや内燃機関が活用可能であることから、石油精製業をはじめとする幅広い関連業種において、導入コストを抑えることが可能となり、導入のポテンシャルが高いとされています。
特に石油精製業は、国内の石油需要の減少に伴い、精製設備能力の削減が求められる上に、削減で余剰となったタンク、土地、人材等を活かした新規事業への取組が求められています。こうした状況から、合成燃料の導入は石油精製業に大きなメリットとなります。

スライド1.JPG(出典:合成燃料研究会 中間取りまとめ|合成燃料研究会)



合成燃料の今後の動向



合成燃料については、国内外で様々な研究開発や実証プロジェクトが行われており、最近では東芝エネルギーシステムズ、出光興産等がCO₂をCO(一酸化炭素)に電気分解する技術を用いたプロセスにより、排ガスなどからのCO₂を「持続可能なジェット燃料」に再利用する、カーボンリサイクルのビジネスモデルの検討を開始しました。また、欧州では合成燃料に関するプロジェクトについては、政府からの支援を受けて研究開発・実証を行っているケースが殆どであり、国をあげて取り組む姿勢です。

そんな合成燃料ですが、かかえている課題の一つに製造技術の確立があります。
現在の製造技術は製造効率が良いとは言えず、効率向上を図るための革新的な製造技術の多くが研究開発の段階にあり、今後の実用化が期待されています。

また、現状では合成燃料は化石燃料よりも製造コストが高く、国内の水素製造コストや輸送コストを考えると、海外での製造が最もコストを抑えることができると見込まれています。しかし、合成燃料のコストは、「脱炭素燃料である」という環境価値をふまえて考えるかどうかで評価が大きく変わります。既存の燃料には無い付加価値も考慮して、将来性のある代替燃料として研究開発を続ける必要があります。

日本においては、今後10年間で集中的に技術開発、実証を行い、2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立し、2030年代に導入拡大・コスト低減を行って、2040年までに自立的な商用化を目指す計画が立てられています。

 

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※CN化:カーボンニュートラル化

(出典:エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは|資源エネルギー庁)
(出典:合成燃料研究会 中間取りまとめ|合成燃料研究会)



まとめ


いかがでしたでしょうか。合成燃料はカーボンニュートラルに向けた新たな燃料として幅広い分野での活用が見込まれています。合成燃料の導入拡大のためには、製造技術の確立やコストの問題もありますが、合成燃料自体が脱炭素燃料であることの国際的評価もまだまだこれからな部分もあります。今回ご紹介した自動車、航空業界の他にも今後業界の垣根を越えて活用されることも十分あり得ますので、興味のある方は是非調べてみてください。

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