炭素税と企業活動への影響
炭素税とは何か
炭素税とは、企業などが排出した二酸化炭素の量に応じて課される税金です。事業活動に伴って石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料を使用した結果、排出される二酸化炭素の量に応じて課税されます。
炭素税はカーボンプライシングの一種です。カーボンプライシングは、温室効果ガスに対して、その排出量に比例した価格をつける施策です。温室効果ガス排出量に応じた費用負担が発生することで、温室効果ガス排出に伴う社会的費用を「見える化」することが可能になり、脱炭素に向けた行動に誘導することできます。
さまざまな国際機関では、炭素税を導入すること、二酸化炭素の排出量削減に効果があるだけでなく、イノベーションを促進するなど、将来の経済成長に寄与するといった提言がなされています。炭素税の導入は世界的な流れになりつつあります。

炭素税は誰が払うのか
炭素税が導入された場合、誰が税金を払うのかについては国の方針によって違ってきます。多くの国では、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を販売もしくは購入する企業や、輸入をする企業が課税対象者になっています。これらの企業は一般的に「上流」に区分されます。
「中流」に区分されるのは、化石燃料による製品を販売する企業や、化石燃料を使って発電する事業者です。「下流」は、化石燃料による製品を使用する企業、電気を使用する企業や家庭を指します。国によっては、「下流」に対して課税するケースもあります。
炭素税が企業活動に及ぼす影響
炭素税が導入された場合には、企業にはさまざまな影響が及ぶことが考えられます。企業活動では、製品の生産からサービスの提供、事務所の運営まで、あらゆる場面で二酸化炭素が排出されているからです。
例えば、建設業の場合では、炭素税の導入によってガソリン価格が値上げされると、資材の運搬にかかるコストや、ブルドーザーやショベルなどを現場で使用するコストも上昇します。
また、日本では化石燃料を使った発電が主流となっていることから、電力を使う幅広い業種に影響が出る可能性もあります。

世界と日本の炭素税の状況を比較
炭素税の導入国と企業の負担
炭素税を世界で最初に導入したのはフィンランドです。1990年に導入しました。暖房用と輸送用の化石燃料消費に対して課税されています。
続いて、1991年にスウェーデンとノルウェーが、1992年にはデンマークが炭素税を導入しました。スウェーデンもフィンランドと同様に、暖房用と輸送用の化石燃料消費に課税されています。デンマークは、電力を除く化石燃料及び廃棄物の消費に対して課税されています。
2000年以降は、スイス、アイルランド、フランス、ポルトガルが炭素税を導入したほか、北米ではカナダのブリティッシュコロンビア州が炭素税を導入しています。
炭素税の導入国の効果は
また、欧州連合(EU)では2005年から排出権取引制度であるEU-ETS(EU Emissions Trading System)が実施されています。EU-ETSは企業に対して排出する温室効果ガスに金銭的負担を課すことで、排出量を削減することに経済的なインセンティブを与える制度です。カーボン・プライシングの取り組みとしては世界最大規模となっています。
EU-ETSでは改正によって対象分野をエネルギー産業、航空、アルミニウムや非鉄金属の製造業、海運にまで広げているほか、対象部門の上流の燃料供給事業者に負担を課すEU-ETSⅡを2027年から開始することにしています。EU-ETSの対象企業は、国によって自国の炭素税が免除されています。
EU-ETSでは温室効果ガスの排出量が多い分野から導入を進めてきました。2020年のEU域内の温室効果ガスの排出量は、1991年に比べて31%減少していて、排出量の削減にEU-ETSの取り組みも大きく貢献しています。EUでは2030年までに2005年に比べて62%削減する目標を掲げています。
日本の炭素税の現状とは
日本でも燃料や電気の利用による二酸化炭素の排出に対して、その量に比例した課税を行う炭素税の導入が検討されてきました。ただ、2025年4月現在では導入には至っていません。
炭素税を導入する利点としては、幅広い主体に対して行動変容を促すことができるといった点が挙げられているものの、確実性を持って削減量を担保することが難しいことや、民間企業の投資やイノベーションの原資を奪うのではないかといった課題もあります。
一方で、低炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入や省エネ対策をはじめとする地球温暖化対策を強化するため、2012年から地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)が導入されています。また、今後は企業の二酸化炭素排出量に課金する炭素に対する賦課金(炭素賦課金)が導入される方針です。
日本の炭素税の今後は<
地球温暖化対策税と企業への影響
地球温暖化対策税は、石油、天然ガス、石炭といった全ての化石燃料の利用に対して、二酸化炭素排出量に応じて負担を求めるものです。納税義務者は化石燃料の採取者または輸入者となっていて、上乗せされた税率を販売先に転嫁するかどうかは、それぞれの事業者の判断に任されています。
2012年10月の導入時から、2014年4月、2016年4月の3段階に分けて税率が引き上げられました。税率は石油がklあたり760円、ガスが1トンあたり780円、石炭が1トンあたり670円となっています。
この税率を二酸化炭素の排出量1トンあたりの税額に換算すると、289円になります。EUーETSで同じ排出量の平均価格が2024年は65ユーロ(1ユーロ160円の場合1万400円)だったことに比べると、かなり低い金額です。
仮に、上乗せ税率が最終消費者に添加された場合は、平均的な世帯で1世帯あたり年間1200円程度の家計負担になると試算されています。現状では、地球温暖化対策税は企業への影響はそれほど大きくないといえます。

炭素賦課金の導入は2028年を予定
一方、炭素賦課金は、前述の通り企業の温室効果ガスの排出量に課金するものです。導入は2028年度からの予定となっています。まだ詳細は検討中であるものの、現状では化石燃料の輸入事業者を対象にして、当初は低い負担で導入し、徐々に引き上げていく方針が明らかになっています。
地球温暖化対策税が化石燃料の使用量に基づく課税であるのに対し、炭素賦課金は温室効果ガスの排出量に直接コストを課すものです。炭素賦課金の方が、より海外の炭素税に近い形になり、現状よりも排出量の削減効果が期待されています。
また炭素賦課金は、あくまで賦課金であり、税金ではありません。政府や関連機関が特定の目的のために、特定の活動に対して課す金銭的な負担です。賦課金の場合、法律で決める税金よりも、政令や省令によって変更できる運用面での柔軟さがあります。
日本の炭素税の今後と企業の対策は
これまで見てきた通り、ヨーロッパを中心に導入が広がっている炭素税は、国際的に見ても効果的な施策とみられています。このため、日本でも二酸化炭素を排出する特定の業種の企業に対して、将来的に炭素税が導入される可能性は高いといえます。
また、グローバル市場では、脱炭素経営を行うことが当然ともいえる流れができつつあります。炭素税が導入されるかどうかに関わらず、脱炭素社会に向けた取り組みは今後も企業に求められます。
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