GX投資とは
GX投資の全体像は
GX投資とは、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーを活用していく取り組みに対して投資を行うものです。
GXはグリーントランスフォーメーションの略で、化石燃料に依存した社会経済システムを、クリーンエネルギーを中心としたシステムに変革することを目指すもので、政府による国家戦略です。投資によってGXを加速させることで、エネルギーの安定供給を実現すると同時に、脱炭素分野で新たな需要や市場を創出し、日本の産業競争力強化と経済成長に繋げていくことを目指しています。
日本では、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを、2050年までに実現する目標を掲げています。この目標を達成するためにも、GX投資は必要不可欠なものになっています。
政府が2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」によると、官民合わせて150兆円を超える投資を、今後10年間で実現することを目指しています。そのための大きな柱になっているのが、国による先行投資支援と、カーボンプライシングを含む規制や制度の改革です。

GX投資におけるGX経済移行債とは
GX投資では、国による大胆な支援が行われています。それはGX経済移行債を活用した、20兆円規模の先行投資支援です。
GX経済移行債とは、GX投資に関して国による支出を確保する目的で発行されている新たな国債です。10年間で20兆円のGX経済移行債が発行される予定で、2023年度に1.6兆円、2024年度に1.7兆円が発行されました。このGX経済移行債による政府資金を呼び水にして、官民合わせて150兆円を超える投資を実現させたい考えです。
GX経済移行債による支援は、民間だけでは投資判断が困難なことや、産業競争力、経済成長、温室効果ガス排出量削減のいずれにも貢献すること、それに国内投資の拡大につながることなどが条件になっています。具体的には、次世代の省エネ半導体開発や、製造業の燃料転換、再生可能エネルギーの拡大などが対象になります。
GX投資とカーボンプライシング
GX投資において、GX経済移行債とともに重要な柱となっているのが、企業の二酸化炭素排出に課金して削減を促すカーボンプライシングです。当初は低い負担から始めて徐々に引き上げていく方針をあらかじめ明示することによって、民間がGX投資に取り組む環境を作っていきます。
カーボンプライシングを推進する取り組みの一つが、GXリーグです。GXリーグは持続的な成長の実現を目指す企業が参加して、排出量取引を行うものです。2023年度から排出量取引の試行が始まっていて、2026年度から排出量取引制度が本格稼働します。
カーボンプライシングのもう一つの取り組みが、2028年度から導入される化石燃料賦課金です。これが化石燃料を採取または輸入する企業に対して、化石燃料に由来する二酸化炭素排出量に応じて賦課金を徴収する制度です。この制度を導入することによって、早期にGXに取り組む企業が有利になる仕組みを構築して、GX投資を促進することを目指しています。
GX投資の分野別投資戦略とは
GX投資における分野別投資戦略の概要とは
GX投資は、二酸化炭素排出量が多い部門について取り組むことが求められています。二酸化炭素排出量が多い部門には、発電などのエネルギー転換部門や、産業部門、それに暮らしに関連する部門などがあります。
その中でも、特に産業競争力強化や経済成長に効果が高いと考えられる部門に対して、GX経済移行債を活用した投資促進策が適用されます。この投資促進策をまとめたものが、分野別投資戦略です。2023年12月にとりまとめを行って、2024年12月に改定が行われました。
重点分野とされているのが次の16分野です。鉄鋼、化学、紙パルプ、セメント、自動車、蓄電池、航空機、SAF、船舶、くらし、資源循環、半導体、水素等、次世代再エネ(ペロブスカイト太陽電池、浮体式等洋上風力、次世代型地熱)、原子力、CCS(二酸化炭素の回収・貯留技術)となっています。
GX投資における製造業関連の投資戦略は
重点16分野の投資戦略のうち、主な分野について見ていきましょう。まずは、製造業関連です。日本全体の二酸化炭素排出量のうち、4割弱を占めているのが製造業です。製造業の中では、鉄鋼、化学、窯業・セメント、紙パルプの4業種がいわゆる多排出製造業と呼ばれるほど、排出量が多くなっています。
鉄鋼では、大型革新電炉への転換や、鉄鉱石から酸素を化学的に取り除いた還元鉄を活用することで、高付加価値厚板の生産を拡大できるように、設備投資の支援策が策定されています。2023年から10年程度の官民投資額の目標は約3兆円で、約3000万トンの二酸化炭素の排出削減を見込んでいます。
化学ではアンモニアへの燃料転換やバイオ利用によって、低炭素化学品の供給を拡大するための投資が考えられています。官民投資額の目標は10年間で約3兆円。約1000万トンの二酸化炭素の排出削減を目指しています。

また、紙パルプではバイオマス素材に転換する設備投資が、セメントでは石炭ボイラーから廃棄物を燃料としたボイラーへの転換などが、投資戦略としてとりまとめられています。官民投資額はそれぞれ約1兆円を見込んでいます。
GX投資における運輸関連の投資戦略は
製造業に次いで二酸化炭素排出量が多いのが運輸です。運輸のうち9割弱を占めているのが自動車部門です。2023年から10年程度で掲げる官民投資額の目標は約34兆円と多額で、約2億トンの二酸化炭素排出量の削減を目指しています。
自動車部門の投資戦略で目指しているのは、電気自動車の開発や性能向上に向けて投資を促進することと、あわせて市場の拡大を一体的に進めていくことです。その中に、設備投資への支援だけでなく、電動車の購入支援も含まれています。
また、世界の蓄電池の開発と生産をリードする拠点として成長できるように、次世代電池への研究開発支援なども投資の対象になっています。

GX投資と次世代技術
GX投資と半導体・水素分野への投資
GX投資の分野別投資戦略で、自動車以外に官民投資額が多いものの一つが、半導体です。2024年度当初予算までに、パワー半導体の生産設備導入支援に4329億円、AI半導体と光電融合等の技術開発支援に1031億円が、GX経済移行債からすでに措置されています。10年間で官民合わせて約12兆円の投資を見込んでいます。
また、発電、自動車、鉄、化学、産業熱など幅広い分野での活用が期待されている次世代のエネルギーが水素です。大規模な供給と利用を一体で進めて、利用拡大とコスト低減を両輪で進めていくために、今後集中的な投資が必要とされています。10年間の官民投資額は約7兆円の予定です。
GX投資と次世代再生可能エネルギーへの投資
官民投資額が多額になっているもう一つの部門が、次世代型太陽電池です。電源構成のうち、太陽光発電は2022年度に9%だったところを、2030年度には14~16%まで増やす計画になっています。
その中で期待されているのが、次世代型太陽電池のペロブスカイト太陽電池です。従来は設置が困難だった場所にも導入が可能で、主要な原料のヨウ素が国内で生産されていることから、ペロブスカイト太陽電池の実用化と普及は急務となっています。
2023年から10年間の官民投資額は約31兆円を予定していて、二酸化炭素の排出量は約2000万トン削減される見通しです。
GX投資と国内生産促進税制
GX投資は産業競争力強化や経済成長とともに、二酸化炭素排出量削減にも貢献できるものが対象になっています。ただ、実際に企業の投資行動を促すためには、GX経済移行債によって官が先行投資をするだけでなく、企業が投資しやすくなるような制度を整備することが必要です。
その一環として、今後国内投資を促進するために、新たな税制措置の導入が検討されています。総事業費が大きく、生産段階でのコストが高い電気自動車などの分野については、生産量や販売量に応じて税額控除措置を講ずる必要があると考えられています。
GX投資については今後もさまざまな施策が実施される見通しで、省エネ補助金による投資促進など、中小企業を対象にしたものもあります。企業は今後もGX投資の動向について注目していく必要があります。