ESG達成の有無によって変化する債権。サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)とは?

2022年03月31日

グリーンボンドやソーシャルボンドと並び新たに誕生したサステナビリティ・リンク・ボンドをご存じでしょうか?ESG目標などの達成の有無によって利息などを含む特性が変化する債権として注目が高まっています。サステナビリティ・リンク・ボンドの概要、メリット、事例などについて詳しく解説します。

【目次】

サステナビリティ・リンク・ボンドとは


サステナビリティ・リンク・ボンド原則


サステナビリティ・リンク・ボンド発行・買い手のメリット


日本企業のサステナビリティ・リンク・ボンド事例

まとめ

サステナビリティ・リンク・ボンドとは


サステナビリティ・リンク・ボンド(以下SLB)とは、サステナビリティまたはESG目標の達成状況に応じて、その財務・構造的特性が変化する可能性のある債権の総称のことです。

この目標は事前に設定した特定のKPIを組み入れたサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)と呼ばれる12の項目に基づき評価されます。

例えば「2030年までに自社製品の製造に必要な素材の●%をリサイクルで補う」というSPTsを定めた場合、これが未達となると、SLBは内包される条項に基づき、発行体が支払う利払いが上昇する仕組みになっています 。

SLBは環境・社会・ガバナンス面でのサステナビリティに貢献する企業に係る資金調達と支援における役割を担っています。
現在は、発行の多くが欧州で実施されていますが、直近では中南米やアジア地域でも徐々に発行件数が増えてきており、今後グローバルな市場へと発展することが期待されています。

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サステナビリティ・リンク・ボンド原則


では、SLBはどのようにして発行体の将来のESG成果を組み込むのでしょうか。その方法を明確にするために作られたのが、「サステナビリティ・リンク・ボンド原則」(以下、SLBP)というガイドラインです。

SLBPは大きく①KPIの選定②SPTsの測定③債権の特性④レポーティング⑤検証の5つの要素で構成されています。これらの指標は投資家・銀行・引受金融機関などが、そのSLBの財務的・構造的特性を理解するために必要となる情報です。つまりSLBを発行する事業体は、この構成要素を開示して、それに対して透明性をもったコミットメントを行うことが期待されています。

① KPIの選定
SLBPでは、発行体に対し少なくとも1つ以上のKPIの選定を求めています。
信頼性の低いKPIばかりが普及してしまうと、SLBの発展を阻害してしまう為、KPIには以下の要素を含むべきとされています。
●発行体のビジネス全体に関連性があり、中核的で重要であり、かつ、発行体の現在及び/または将来的なビジネスにおいて戦略的に大きな意義のあるもの
●一貫した方法に基づき測定可能、または定量的なもの
●外部からの検証が可能なもの。かつベンチマーク化が可能なもの(例えば、SPTs の野心度合を評価するために、外部指標・定義を活用する等)

② SPTsの設定
SLB発行体が①で選定したKPIをどの程度改善するか、またそれが現実的に達成可能かどうかはSLBにおいて重要な要素と位置付けられています。その為、SLBPでは➀で選定したKPI毎に1つ以上のサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を設定することを求めています。

SPTsは、以下のように野心的であるべきとされています。
●各KPI値の大幅な改善に結びつくものであること
●可能であればベンチマークまたは参照可能な外部指標と比較できること
●事前に設定された発行体の全体的なサステナビリティ/ESG戦略と整合しており、かつ、債券発行前(または同時)に設定された時間軸に基づき決定されていること

またSPTsを設定する際には、自社の直近のパフォーマンス水準、同業他社と比較した際のSPTsの位置づけ、科学的根拠など複数のベンチマーク手法の組み合わせに基づき設定されることが求められています。
その上で目標達成に関するタイムラインやESG戦略等、発行体がどのようにSPTsを達成するのかなどを可能な限り定量的に説明する事が求められます。

③ 債権の特性
SLBの1番の特徴は、発行体が事前に設定したKPI、SPTsを達成するか否かに応じて債権の財務的・構造的特性が変化する点です。
財務的・構造的特性というのは、利率の変動が典型例ではありますが、SLBの設計に応じて利率以外の変化について考慮することも可能です。
債権の財務的・構造的特性の変化は、当初のSLBの財務的特性に見合ったものであり、かつ意味のあるものとすることが推奨されています。

④ レポーティング
SLBの発行体は、以下の項目を含む最新のレポートを容易に入手可能な形で開示する必要があります。
●選択した KPI の パフォーマンス に関する最新情報(該当する場合、関連するベース
ラインを含む)
●検証保証報告書において、SPTs の達成状況を踏まえた債券の財務的・構造的特性
の変化の有無に対する影響、及びそのタイミング
●投資家が SPTs の野心度合を測るために有用な、いかなる情報(発行体のサステナビリティ戦略や関連する KPI 値/ ESG ガバナンスの情報の更新、またはより一般的
な KPI 値/SPTs の分析に関連する情報等)。

また、このレポートはSLBの財務的・構造的特性の変化に関する判定対象日までは少なくとも年に1回、定期的に公表することが求められています。

⑤ 検証
発行体は少なくとも年 1 回、SLB の財務的・構造的特性の変化に対する最終判定日に到達するまでは、判定対象期間の SPTs の達成状況について、 監査法人や環境コンサルタントなどの専門的知見を有する外部機関より、各 KPI 値に対する各 SPTs の達成状況について、外部検証を受けることが求められています。

また、SPTs の達成状況に係る外部検証は、公開情報として開示することが求められており、
セカンド・パーティー・オピニオンのような発行前の外部レビューとは異なり、発行後の外部検証は SLBP として必ず実施する必要があります。


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サステナビリティ・リンク・ボンド発行・買い手のメリット


SLBの発行体や、買い手にはそれぞれどのようなメリットがあるのでしょうか。

■SLB発行のメリット
SLBを発行する企業は、自社全体で社会環境問題に関連する目標を明確に定義する必要があるため、短期または中長期的に優先的に取り組むべき明確な目標が生まれ、社内全体で目標に向かって共通認識を持つことができます。
また、SLBはESGへの取り組みを始めたばかりでこれからESG認証の取得を目指す企業やESGへの考慮が十分でないと考えられるセクターにとっても発行がしやすい可能性があります。

なぜならSLBで調達した資金には使途の限定がないためです。求められるのは、発行体が先述した原則や設定目標を達成するかどうかであり、資金の使い道は発行体の裁量に一任されます。その為、特定のプロジェクトに資金使途が限定される傾向にあるグリーンボンド等とは異なり、SLBでは一般的な事業目的にも利用可能なため、特定のプロジェクトを計画的に運用するといった事が難しいセクターや、非上場企業でも利用することができます。

■SLB買い手のメリット
SLBは目標と目標を達成できなかったときに発行体が支払う経済的コストが明確であるため、投資家などの買い手が発行体に対して評価をする際に分かりやすい指標となります。
また、SLBを買うことによって、環境問題をはじめとする様々な世界的なテーマに対応した事業展開の推進、環境リスクの削減、持続可能なインフラ設備への貢献などにも寄与でき ます。グリーンボンド等のプロジェクト単位での債権では、その事業者が行っている他のプロジェクトにESG上の懸念があった投資家も、SLBでは発行体単位で評価することができるようになります。

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日本企業のサステナビリティ・リンク・ボンド事例


2020年10月、不動産大手のヒューリックが日本初となるSLBを発行し話題となりました。
ESG目標と発行条件が連動する社債で、大手資産運用会社や地方の信用金庫、大手生命保険会社が投資を表明した他、大手生命保険会社も買い手となりました。
ここでは、日本企業のSLB事例についていくつかご紹介します。

・野村総合研究所
2021/3/26 50億円発行。SPTsとして下記の2項目が設定されています。
①2030年度 NRIグループの温室効果ガス排出量72%削減(2013年度比)
②2030年度 データセンターの再生可能エネルギー利用率70%
をSPTsに設定しています。

・ANAホールディングス
2021/6/8 200億円発行。以下をSPTsに設定しています。
① DJSI World、及びDJSI Asia Pacificの構成銘柄に選定
② FTSE4Good Indexの構成銘柄に選定
③ MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄に選定
④ CDP 「A-」以上の評価取得

・イオンモール
2021/11/26 200億円発行。2025年度末における国内の全イオンモールで使用する電力のCO₂フリー化をSPTsに設定しています。

まとめ


いかがでしたでしょうか。
SLBはまだESG債券市場のほんの一部を構成するに過ぎませんが、今後アジアなどでも急速に発展することが予測されます。
環境省では、SLB発行前、発行後の必須項目と推奨項目を含む開示項目チェックリストを公開しているため、興味のある方はこういったものも是非活用してみてください。

(出典元)
サステナビリティ・リンク・ボンド原則自主的ガイドライン|ICMA
https://www.icmagroup.org/assets/documents/Regulatory/Green-Bonds/Translations/2020/Japanese-SLBP-2020-June-280920.pdf
グリーンファイナンスポータル|環境省
http://greenfinanceportal.env.go.jp/
サステナビリティ・リンク債とは?仕組みと他のESG債との違い|Schroders
https://www.schroders.com/ja-JP/sysglobalassets/schroders/sites/japan/pdf/insights/202105_what_are_sustainability-linked_bonds_and_how_do_they_work.pdf
日本初のサステナビリティ・リンク・ボンド発行|日経ESG
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00005/110400022/

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